店舗開業は、業界や業種によって難易度に違いはありますが、極端に開業が難しいということはありません。しかし、店舗開業を成功させるためには、事業計画の策定や開業資金の調達など綿密な準備が必要です。本記事では、日本の開業・廃業状況、店舗開業が難しい理由、店舗開業を成功させるポイントを解説します。
日本の開業・廃業状況
中小企業庁の統計データによると、日本の開業率は1988年をピークに低下傾向に転じました。しかし、2000年代に入り緩やかな上昇傾向となり、その後再び低下に転じています。一方、廃業率は1996年以降増加傾向で推移していましたが、2010年から低下傾向となっています。
業界や業種によって開業の難易度には違いはありますが、極端に開業が難しいということはありません。綿密な事業計画と準備を行えば、チャンスがあるといえるでしょう。
店舗開業が難しい業界・業種
中小企業庁のデータによると、下記2つの業界・業種は開業率も高いが廃業率も高いことがわかっています。
● 宿泊業・飲食サービス業
● 生活関連サービス業・娯楽業
宿泊業・飲食サービス業
宿泊業・飲食サービス業は、開業率が高い反面、廃業率も高い業界です。
中小企業庁のデータによると、宿泊業・飲食サービス業の開業率は8.7%でトップですが、廃業率も5.6%と最も高いです。
株式会社シンクロ・フードが調査したデータによると、開業した飲食店の約30%が1年以内に、約90%が10年以内に廃業に追い込まれています。
大きな要因としては、下記の点が挙げられます。
宿泊業・飲食サービス業界の開業は、比較的容易ですが、継続していくことが難しい業界だといえるでしょう。
参考:閉店しやすい飲食店の特徴は!?居抜き情報.COMが過去に閉店した飲食店の傾向の調査結果を発表![2014-2016年版] | 株式会社シンクロ・フード
生活関連サービス業・娯楽業
中小企業庁のデータによると、生活関連サービス業や娯楽業は、開業率が6.3%と全業種で2位と高い一方で、廃業率も4.8%と2位と高くなっています。この業種は、宿泊業・飲食サービス業と同様に、人手不足や市場の変化などの影響を受けやすい傾向にあります。
特に人口密集地域では、同様のサービスを提供する競合店舗が多数存在するため、競争が激しくなりがちです。また、顧客を確保するための価格競争が起こり、収益率が低下してしまうリスクもあります。
このように、生活関連サービス業・娯楽業は、人手不足や市場環境の変化、競合他社との価格競争など、様々な要因から開業が難しい業種といえます。
店舗開業が難しいとされる理由
店舗開業が難しいとされる理由は、下記の5つです。
● 資金調達の難しさ
● ライバルが多い
● 法的手続きに時間がかかる
● リスク管理
● 労働力の確保
資金調達の難しさ
店舗開業にあたって、大きな障壁となるのが資金調達の難しさです。
初期投資額は業種や規模によって異なりますが、平均すると1,000万円以上の資金が必要とされています。具体的には、物件の賃貸費用、内装工事費、設備費、在庫購入費などが必要です。さらに、開業後も黒字化するまでの運転資金も確保しておかなければいけません。
このような出費を自己資金だけで賄うことは現実的に難しく、銀行などの外部から資金調達する必要があります。しかし、開業時は実績がないため、融資を受けづらかったり、事業計画の精査や担保提供が求められたりなど苦戦するケースが多いです。
そのため、開業を目指す際は、必要となる資金を的確に見積り、調達方法を綿密に検討することが必要です。
ライバルが多い
ライバルが多い業界で店舗を開業する場合、競争が激しいことが予想されます。
特に人気の立地では、同業他社や大手チェーン店と顧客獲得のために競争しなければいけません。競争が激しければ激しいほど、差別化が難しくなり、顧客獲得が大変になります。
一定数の顧客を獲得しライバルに勝つには、効果的な戦略を立てることが必須です。独自のコンセプトやサービスを打ち出して顧客の目を引き付けることで、ライバル店との差別化を図る必要があります。また、競合他社の動向を注視し、自社の強みを生かした戦略を実践することで、顧客の目を引き付けられ、ライバル店との差別化に繋がります。
法的手続きに時間がかかる
店舗を開業する際には、様々な法的手続きをクリアしなければなりません。
具体的には、営業許可の取得、衛生管理基準の遵守、税務手続きなど、開業に必要な手続きは多岐にわたります。これらの手続きは、書類作成や審査に時間がかかったり、その他の準備と並行して進めなければいけなかったりするため、負担が大きいです。
人員や資金が限られている開業時には、手続きに専念するリソースを確保することが難しく、開業準備に遅れが生じるリスクもあります。
リスク管理
店舗開業が難しい理由の一つとして、リスク管理が挙げられます。
店舗経営には、以下のような様々なリスクが潜んでいます。
● 需要の変化や競合の出現など、市場環境が常に変化する
● 社会のトレンドや消費者の嗜好が変わり、サービス・商品が陳腐化する
● 景気後退や為替変動などの経済変動により、売上が大きく変動する
● 人材の確保・育成が難しく、質の高いサービスが提供できなくなる
● 火災や地震などの自然災害や事故により、店舗が損壊・休業する
このように、様々なリスクを想定し、その影響を最小限に抑える対策を立てることが重要です。リスクを適切に管理できなければ、店舗経営に重大な支障をきたす可能性があります。
労働力の確保
店舗開業が難しい理由の一つとして、労働力の確保が挙げられます。
店舗を継続的に運営していくためには、優秀な人材を確保し、定着させることが重要です。しかし、実際には下記のような理由から、労働力の確保が難しいといわれています。
● アルバイト求人媒体への掲載には費用がかかる
● 求人活動や採用プロセスには手間とコストがかかる
● 優秀な人材は選り好みができるため確保が難しい
● 学生アルバイトなどは長期的な雇用が難しい
このように、開業時から継続的に優秀な人材を確保し続けることは、資金面や採用ノウハウ、求人市場の状況など様々な要因で難しい課題となっています。
難しい店舗開業を成功させるポイント
店舗開業を成功させるポイントは、下記の3つです。
● 事業計画書を入念に作成する
● 必要となる開業資金を正確に把握し用意する
● 経営スキルを身につける
事業計画書を入念に作成する
事業計画書とは、今後どのように事業を運営していくのか、具体的な行動計画を内外に示したものです。この計画書を作成することで、自分の頭の中にあるアイデアや構想を整理でき、事業を客観的に見つめ直せます。
事業計画では、お店のコンセプト・ターゲット選定、セールスポイント、事業の見通しの3つを特に意識して作成しましょう。
お店のコンセプト・ターゲット選定
事業計画書の中で重要な項目の一つが、お店のコンセプトとターゲット層の選定です。
自身が開業したいお店のコンセプトを明確にした上で、コンセプトに合ったターゲット層を絞り込むことが成功への第一歩となります。
ターゲット層を決める際は、性別や年齢層だけではなく、職業や家族構成など詳細に分析することで、より精度の高いターゲティングができます。例えば、単に「20代女性」と設定するのではなく、「会社員の20代独身女性」、「子育て中の20代ママ」などが考えられるでしょう。より具体的に絞り込むことで、ニーズに合ったサービスや店舗立地などが検討できます。
このように、ターゲット層の属性を深く掘り下げることで、店舗の立地選定や内装デザイン、商品構成や価格設定など、事業計画の多くの要素を的確に決めやすくなります。
セールスポイント
お店のコンセプト・ターゲットが決まれば、強みとなるセールスポイントを考えます。
セールスポイントを決める際は、下記を念頭に置いておきましょう。
自社だけが提供できる価値や差別化できる点を明確にすることで、強力なセールスポイントを打ち出せます。
事業の見通し
事業の見通しを立てることは、店舗開業と経営を成功させるために非常に重要です。
事業の見通しが立てられれば、下記のようなメリットがあります。
● 開業後の経営戦略や運営方針が明確になり、一貫した方向性に向かって行動できる
● 必要な初期投資やランニングコストが計算でき、適切な資金調達方法を選択できる
● 経済的、技術的、法的などのリスクを特定し、それに対する対策を立てられる
店舗開業は多くの困難を伴いますが、事業の見通しを立てることで、経営上の課題を事前に把握し対策を講じることができます。
必要となる開業資金を把握し用意する
必要な開業資金を把握し用意することは、店舗開業を成功させるための重要なポイントです。
適切な資金計画と資金調達戦略を立てることで、安定した経営基盤を築き上げられます。
開業資金の用意には、初期投資の計画・見積り、資金調達の方法、リスクの考慮、資金用途の優先順位で4つが大切です。
初期投資の計画・見積り
初期投資の計画・見積りは、店舗開業時に必要となる費用を事前に把握し、適切な資金調達を行うために必要です。
主な初期投資費用には下記のようなものがあります。
● 店舗物件の賃料や敷金・礼金
● 内装工事費用
● 設備費用
● 在庫費用
● 許認可取得費用
● 保証金
これらの初期投資に加え、人件費、家賃、水道光熱費、販売促進費、原材料費などのランニングコストについても予測しておきましょう。そして、開業当初は売上が伸び悩む期間が見込まれるため、資金不足に陥らないよう、キャッシュフロー計画を立てて必要運転資金を確保することが重要です。
このように、事前に詳細な初期投資計画と月次の収支予測を立てることで、開業に必要な適切な資金を確保し、資金面でのリスクを最小限に抑えられます。
資金調達の方法
開業資金の調達は、事業を始めるうえで重要な課題の一つです。
資金調達の方法を適切に計画することで、事業の安定した立ち上げができます。
主な資金調達の方法には、以下の3つがあります。
自己資金が少額の場合は融資を中心に検討し、一定の自己資金があれば補助金等も合わせて活用するなど、バランスの取れた資金計画を立てましょう。
リスクの考慮
資金調達が順調に進むとは限りません。
例えば、資金調達が遅れたり、想定外の費用が発生したりする可能性があります。
このようなリスクに備え、下記のような対策を立てておきましょう。
リスクに対する具体的な対策を立てておくことで、いざという時に冷静に対応できます。
資金用途の優先順位
開業資金の用途には必須の費用と、余裕があれば支出できるオプション費用があります。
限られた資金を有効活用するためには、優先順位を明確にすることが重要です。
必須の費用としては、店舗賃料・保証金、内装工事費などが挙げられます。一方、オプション費用としては、付加価値の高い内装や高級備品、大々的な広告キャンペーンなどが考えられます。
これらは事業を成長させるために役立つ可能性がありますが、資金が不足する場合は後回しにするべきです。
このように、優先順位をつけながら必須な費用とオプション費用を区別し、予算を効率的に活用しましょう。
経営スキルを身につける
店舗開業を成功に導くためには、優れたサービスやコンセプトだけでなく、経営面でのスキルも必要です。経営スキルを身につけることで、店舗開業の成功率を高められるでしょう。
店舗開業に必要な経営スキルには、戦略立案と計画能力、財務管理の能力、リスク管理と問題解決能力の3つが重要です。
戦略立案と計画能力
店舗開業を成功にさせるためには、事業の目標を明確に設定し、達成に向けた戦略を立案する能力が求められます。単に「お店を開きたい」という思いだけではなく、どのような商品・サービスを提供し、どのような顧客層を狙うのか、競合他社との差別化はどのように図るのかなど、事業のコンセプトを明確にする必要があります。また、その実現に向けた具体的な行動計画を立てることが重要です。開業までのスケジュール管理、市場分析、人員配置、資金計画、販売促進策などを細かく検討し、計画化しておく必要があるでしょう。
このように、事業の全体像を具体的にイメージし、それを実現するための詳細な行動計画を立てる能力が必要です。
財務管理の能力
店舗経営において、財務管理の能力は極めて重要です。
収支の状況を的確に把握し、経営資金の確保や運用、予算の策定など、適切な財務管理を行わなければなりません。
具体的には、下記の点に留意する必要があります。
財務管理能力は、店舗経営の根幹を成す重要なスキルです。黒字化に向けて、売上アップと経費削減の両面から財務改善に取り組む姿勢が大切です。
リスク管理と問題解決能力
店舗を開業する際には、様々なリスクが伴います。経営者は、事前にリスクを予測し対策をする能力が必要です。
具体的なリスクとしては、競合他社の進出、資金繰りの悪化、商品の不具合や事故など多岐にわたります。これらのリスクが現実化した場合、店舗運営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、リスク発生時の対応策をあらかじめ検討しておかなければいけません。
例えば、緊急時の資金確保の方法、代替施設の確保、損害補償の方法など、リスクごとに対処法を用意しておきます。
加えて、予期せぬ問題が発生した際に、迅速かつ適切に対応できる問題解決能力も重要です。冷静に状況を分析し、最善の解決策を導き出す力が求められます。
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本記事では、日本の開業・廃業状況、店舗開業が難しい理由、店舗開業を成功させるポイントを解説しました。
日本では、業界や業種によって開業の難易度には違いがありますが、極端に開業が難しいということはありません。入念な事業計画書の作成、必要な開業資金の把握と準備、経営スキルの習得などのポイントを押さえることで、成功する可能性が高まります。開業を目指す方は、本記事を参考に準備を進めていきましょう。
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