店舗を開業する際には、税金の知識が欠かせません。個人事業主と法人では、納めるべき税金の種類や税負担が大きく異なり、開業後の資金計画にも影響します。
さらに、消費税の免税条件や節税対策を理解しておくことで、余計なコストを抑えることが可能です。
本記事では、飲食店や小売店の開業時にかかる税金を個人事業主と法人に分けて解説し、開業に必要な初期費用や納税時の注意点について詳しくご紹介します。
店舗開業をする前に税金を正しく理解しよう
店舗を開業する際、事業の運営にかかるさまざまな税金について事前に理解しておくことが重要です。特に、個人事業主として開業する場合と法人として設立する場合では、税金の種類や納税義務が異なります。税負担を適切に管理し、節税対策を考えるためにも、開業前にしっかりと税金の仕組みを押さえておきましょう。
個人事業主と法人の違いとは?
店舗を開業する際、個人事業主として開業するか、法人を設立して経営するかで税負担が大きく異なります。個人事業主は比較的手続きが簡単で、事業開始のハードルが低い一方、税金面では所得に応じた累進課税が適用されるため、所得が高くなると税負担が増加します。一方、法人は設立や運営に手間やコストがかかるものの、税率が一定であり、経費として計上できる範囲が広いため、節税しやすいというメリットがあります。
【個人事業主】店舗開業にかかる税金
個人事業主として店舗を開業する場合、主に以下の税金を納める必要があります。
所得税
個人事業主は、事業から得た所得に対して所得税を支払う必要があります。所得税は累進課税制度が適用されるため、所得が増えるほど税率も高くなります。年間の所得が控除額を超えた場合、確定申告を行い、所得に応じた税額を納めることになります。
節税対策として、必要経費を正しく計上することが重要です。店舗の家賃、仕入れ費用、光熱費、人件費などは経費として計上できるため、適切な記帳を行い、税負担を抑える工夫をしましょう。
個人住民税
個人住民税は、事業を行っている地域の自治体に納める税金です。前年の所得をもとに計算され、所得に応じて課税されます。一般的に、所得税を納めた翌年に住民税の納付が求められるため、納税スケジュールを把握し、計画的に資金を確保しておくことが大切です。
個人事業税
個人事業税は、一定の業種に該当する個人事業主が納める税金です。小売業や飲食業など、多くの店舗経営者が対象となります。年間の事業所得が290万円を超えた場合に課税され、税率は業種によって異なります。たとえば、小売業や飲食業では5%の税率が適用されるため、所得が増えるほど負担が大きくなります。
次は、法人として店舗を開業した場合にかかる税金について解説します。
【法人】店舗開業にかかる税金
法人として店舗を開業する場合、個人事業主とは異なる税金が発生します。法人は個人とは別の「法人格」として扱われるため、法人独自の税負担が発生し、税務処理もより複雑になります。しかし、経費計上の範囲が広く、節税の選択肢も多いため、事業規模が拡大する場合には法人化を検討する価値があります。ここでは、法人が納める主な税金について解説します。
法人税
法人税は、法人の利益(所得)に対して課される税金です。個人事業主の所得税と異なり、法人税は一定の税率が適用されます。税率は資本金1億円以下の中小企業の場合、所得800万円以下で15%、800万円超で23.2%(2024年時点)となっています。
法人税の節税対策として、交際費や役員報酬、減価償却費などを適切に経費計上することが重要です。また、赤字が出た場合、繰越控除を利用することで、将来の黒字と相殺することが可能です。
地方法人税
地方法人税は、法人税を基に計算され、国に納める税金です。2014年の税制改正により、新たに導入された税金で、法人税額に一定の割合(4.4%)を掛けて算出されます。
この税金は、国が地方自治体に再分配する形で運用されています。法人税と連動しているため、法人税額が大きくなるほど地方法人税の負担も増えます。
法人住民税
法人住民税は、事業を行う自治体に納める税金で、法人の所得に応じた「法人税割」と、一定額が課される「均等割」から構成されます。均等割は、法人の資本金や従業員数に応じて決まり、たとえ赤字であっても最低限の税額が発生します。
たとえば、資本金が1,000万円以下で従業員50人以下の法人の場合、均等割は7万円程度となります。法人住民税は、地方自治体ごとに異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
法人事業税
法人事業税は、事業を行う法人に課せられる税金で、所得に応じた税率が適用されます。業種によって異なる税率が設定されており、小売業や飲食業の場合、所得に応じて3.5%~7%程度の税率が適用されます。
法人事業税の特徴として、法人税と異なり「外形標準課税」という仕組みがある点が挙げられます。一定規模以上の法人(資本金1億円超)には、所得に関わらず課税される仕組みがあり、税負担が増加する可能性があります。
消費税が免除されるケース
消費税は、商品やサービスの提供に対して課される税金ですが、一定の条件を満たせば納税義務が免除されるケースがあります。特に、開業したばかりの事業者は、すぐに消費税を支払う必要がない場合が多いため、どのような条件で免除されるのかを理解しておきましょう。
開業後2年間
新たに事業を開始した場合、原則として開業から2年間は消費税の納税義務が免除されます。これは「免税事業者」として扱われるためであり、一定の売上規模以下の事業者を税負担から守る目的で設けられた制度です。
ただし、以下のようなケースでは、2年間の免税期間が適用されない場合があります。
● 資本金が1,000万円以上の法人として開業した場合
● 特定期間(開業初年度の上半期など)の売上が1,000万円を超えた場合
個人事業主や資本金1,000万円未満の法人であれば、基本的には開業から2年間は消費税を支払う必要がないため、資金繰りの面で有利になります。
基準期間内の課税売上高が1,000万円を下回る
消費税の課税事業者となるかどうかは、基準期間(個人事業主の場合は2年前、法人の場合は前々事業年度)の課税売上高によって決まります。この基準期間において、課税売上高が1,000万円を下回っている場合、翌年(法人の場合は翌事業年度)から再び免税事業者となることが可能です。
たとえば、個人事業主が開業し、初年度の売上が1,200万円だった場合、2年後には消費税の納税義務が発生します。しかし、翌年の売上が800万円に落ち込んだ場合、その2年後には再び免税事業者となり、消費税の納税義務がなくなります。
法人の場合も同様に、前々事業年度の売上が1,000万円を下回れば、消費税の納税義務がなくなります。ただし、資本金が1,000万円以上の法人は、売上にかかわらず設立当初から課税事業者となるため、法人化する際には資本金の設定に注意が必要です。
このルールを活用し、売上が変動しやすい事業の場合は、計画的に税務処理を行うことで消費税の負担を抑えることが可能になります。
飲食店・小売店開業にかかる初期費用とは?
店舗を開業する際には、物件の契約や設備の準備、開業手続きなどにまとまった資金が必要になります。特に飲食店や小売店では、物件取得費や内装工事費、設備投資費などが大きな負担となるため、事前に必要な資金を把握し、資金計画を立てておくことが重要です。ここでは、開業時に発生する代表的な費用について解説します。
開業手続きにかかる費用
飲食店や小売店を開業するには、行政機関への届け出や許認可の取得が必要です。例えば、個人事業主として開業する場合には、税務署に開業届を提出する必要があります。開業届の提出自体に費用はかかりませんが、法人として開業する場合には法人設立登記が必要になり、登録免許税として株式会社で約15万円、合同会社で6万円が発生します。
飲食店を開業する場合、保健所の「飲食店営業許可」が必要です。自治体によって金額は異なりますが、おおよそ1万6千円~から2万円程度の申請費用がかかります。
また、収容人数が30人以上の店舗では、防火管理者の選任が必要になり、消防署で講習を受ける必要があります。防火管理者講習の受講費用は5千円から1万円程度です。
さらに、深夜営業を行う飲食店では「深夜酒類提供飲食店営業開始届」や「風俗営業許可」が必要となる場合があります。
設備投資にかかる費用
店舗の内装や設備は、業態によって大きく異なりますが、初期費用の大部分を占めるため慎重に計画を立てる必要があります。
まず、物件取得費として、保証金や敷金の支払いが発生します。一般的には家賃の6ヶ月分から12ヶ月分が必要となるため、月額賃料が20万円の物件なら120万円から240万円ほどの初期費用を見込む必要があります。
内装工事費は、業態や店舗の広さによって異なりますが、飲食店の場合、1坪あたり30万円から50万円が相場です。
カフェなどの小規模な店舗であれば100万円から300万円程度の内装費で済むこともありますが、規模が大きくなったりデザインにこだわったりすると1,000万円以上かかることもあります。
飲食店では厨房機器の導入も必要になります。冷蔵庫やコンロ、シンクなどを揃えると、最低でも50万円から300万円程度の費用が発生します。
中古品を活用すればコストを抑えられますが、機器の耐久性やメンテナンス費用を考慮する必要があります。
加えて、レジやPOSシステムを導入する場合、10万円から50万円ほどの費用がかかることが一般的です。
さらに、開業時の仕入れ費用も考慮する必要があります。飲食店では食材、小売店では商品を仕入れる必要があり、初回の仕入れ費用は業態によりますが、おおよそ20万円から100万円程度が必要となります。
開業後のランニングコスト
開業後のランニングコストも考慮する必要があります。一般的に、開業後3~6ヶ月分の運転資金を確保しておくと安心です。
毎月の固定費として、店舗の家賃や水道光熱費が発生します。立地や規模によりますが、20万~50万円が目安です。飲食店ではガスや電気の使用量が多く、光熱費が高くなる傾向があります。
人件費も重要なコストで、売上の約30%が目安です。従業員を雇う場合、50万~200万円の支払いが必要になるケースもあります。さらに、食材や商品の仕入れ費用として毎月20万~100万円がかかります。売上と在庫のバランスを考慮した計画が求められます。
広告・販促費も欠かせません。チラシやSNS広告、Webサイト運営などに5万~30万円程度かかることが一般的です。また、法人住民税や社会保険料などの税金・保険料も発生し、毎月5万~15万円の負担が見込まれます。
納税時の注意ポイント
事業を運営するうえで、納税をスムーズに行うための管理は欠かせません。税務処理が適切に行われていないと、余計な税負担が発生したり、ペナルティを受けたりする可能性があります。ここでは、納税時に特に注意すべきポイントを解説します。
帳簿を正しく管理する
事業の収支を明確にするために、日々の取引を正確に帳簿へ記録することが重要です。売上や経費の記録を適切に行うことで、確定申告時の計算がスムーズになり、税務調査が入った際も安心です。会計ソフトを活用することで、帳簿の管理を簡単にすることも可能です。
領収書を漏れなく管理する
経費として認められる支出は、正しく記録し、領収書を保管しておく必要があります。領収書やレシートがないと、経費計上が認められず、結果的に税負担が増えることになります。電子帳簿保存法に対応したクラウド会計サービスを利用すれば、領収書の管理を効率化できるため、検討するのもよいでしょう。
納税の日程を常に確認する
納税期限を守ることは、事業運営において重要なポイントです。期限を過ぎると延滞税や加算税が発生し、余計な負担がかかります。特に、所得税・法人税・消費税などは納付期限が異なるため、カレンダーや会計ソフトを活用して管理するのがおすすめです。
税理士に相談する
税務処理に不安がある場合は、税理士に相談することで適切なアドバイスを受けられます。特に節税対策や税制改正への対応を検討する際、専門家の意見を聞くことで最適な方法を選ぶことができます。初めて事業を運営する場合は、顧問契約を結び、定期的に相談できる体制を整えておくと安心です。
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まとめ
店舗を開業する際には、税金に関する知識をしっかりと身につけておくことが重要です。個人事業主と法人では税負担の仕組みが異なり、それぞれ所得税や法人税、住民税、事業税などが課されます。また、一定の条件を満たせば消費税の納税が免除されるケースもあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
開業資金には物件取得費や内装工事費、設備投資費などがかかるほか、運営資金としてランニングコストの確保も必要です。納税時には帳簿や領収書の管理を徹底し、納税スケジュールを把握しておくことが大切です。税務処理に不安がある場合は、税理士に相談することで適切なアドバイスを受けられます。
開業時の税金や費用についてしっかりと理解し、計画的に準備を進めることで、スムーズな店舗経営を実現しましょう。
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