飲食店経営において、人件費は毎月発生する大きな経費です。人件費の管理は、収益性の向上や業務効率化につながります。しかし、人件費の削減を過度に行うと、スタッフのモチベーションの低下や労働環境の悪化を招く可能性があります。本記事では、飲食店の人件費に関する指標や削減する方法、注意するポイントを解説します。
飲食店で必要な人件費とは?
飲食店における人件費とは、正社員のスタッフやアルバイトスタッフに支払う全ての金額を含むものです。人件費は、雇用形態によって支払う項目が異なります。
アルバイトスタッフの人件費は、基本給、時間外手当、深夜手当、交通費などです。一方、正社員の人件費には、基本給、役職手当、残業手当、通勤手当、住宅手当、扶養手当、健康保険、厚生年金、雇用保険、組合費などが含まれます。
これらの人件費は、各店舗の条件によっても変動します。人を雇用する際は、必要な人件費を適切に見積もり、法令の遵守にも十分注意を払わなければいけません。
飲食店における人件費の重要性
飲食店経営において、人件費は大きな経費の一つです。
一人を雇うことで月に数十万円単位の費用がかかるため、適切な人員配置と生産性の管理が重要となります。また、安易に人数を増やしてしまうと、人件費が経営を圧迫し、十分な利益が確保できなくなる可能性があります。一方で、人件費を無闇に削減すると、スタッフのモチベーションの低下や過重労働につながり、結果的に生産性の低下や離職につながってしまうかもしれません。
そのため、効率的な人員配置と適切な人件費管理が重要です。
飲食店の人件費に関する指標
飲食店の人件費を管理するためには、指標や算出根拠を把握しておくことが大切です。
重要な指標は、下記の5つです。
● FLコスト
● 営業利益
● 人時売上高
● 労働分配率
● 労働生産性
FLコスト
FLコストとは、「Food(食材)」と「Labor(労働者)」の合計費用のことです。
一般的な飲食店では、売上に対するFLコストの割合は55~60%ほどが適正値とされています。内訳としては、食材費が24~40%、人件費が20~36%ほどが目安です。しかし、飲食店の業態や回転率によってこの割合は変動します。例えば、料理を売りにしている小規模なお店では、食材費の割合が高くなる傾向にあります。一方で、接客に力を入れているお店では人件費の割合が高くなるでしょう。
そのため、各飲食店の状況に合わせて、適切なFLコストの管理が重要です。
飲食店の人件費の目安は売上の30%
一般的な飲食店の人件費率は、売上の30%前後が目安とされています。例えば、売上が月100万円の場合、人件費は30万円が目安です。ただし、この30%という数値は一般的な目安であり、実際の人件費率は、飲食店の業態や特性によって異なります。そのため、30%という数値は参考程度に捉え、自店の状況に合わせて適切な人件費率を設定しましょう。
営業利益
営業利益とは、売上から諸々の経費を引き、最終的に残った金額のことです。
経済産業省のデータによると飲食店の営業利益は、平均で8.6%となっています。例えば、月の売上が1,000万円の場合、営業利益は80万円程度になると考えられます。営業利益を増やすためには、店舗運営に関わる全体的なコスト管理が大切です。人件費をはじめ、食材費、家賃、光熱費など、あらゆる経費の適正化に努めることが必要でしょう。特に、人件費は飲食店の大きな支出項目の一つであり、適切な人員配置と生産性の向上によってコストを抑制できます。
参考:3.売上高営業利益率|商工業実態基本調査
人事売上高
人時売上高とは、スタッフが一時間あたりにどれだけの売上を出したのかを表す指標です。人時売上高は、その日の売上高を、全スタッフの労働時間で割ることで算出できます。
一般的に、4,000~5,000円以上が人時売上高の基準です。この指標が高いほど、スタッフの生産性が高いことを示しています。一方で、人時売上高が高すぎる場合は、効率だけを優先して、質の低いサービスをお客様に提供している可能性があります。逆に、人時売上高が低い場合は、スタッフが働いた時間に対して、見合った売上を出せていないかもしれません。
そのため、店舗の売上から、人時売上高の目標値を設定し、スタッフのシフト調整を行いましょう。
労働分配率
労働分配率とは、売上高から原価を引いた粗利に対する人件費の割合を表す指標です。
一般的に、飲食店における労働分配率の目安は、40%前後とされています。具体的な算出方法は、(人件費 ÷ 粗利) × 100 で求められます。
例えば、売上が100万円で粗利が50万円、人件費が30万円の場合、労働分配率は (30万円 ÷ 50万円)× 100 = 60% です。
つまり、100万円の粗利から40万円が人件費に充てられるのが適切な水準といえます。しかし、この数値は、業態や店舗の特性によってばらつきがあります。例えば、接客サービスを重視する店舗では人件費の割合が高くなる傾向にあるでしょう。そのため、各店舗の状況に合わせて、人件費管理と労働分配率の設定が必要です。
労働生産性
労働生産性は、スタッフ一人あたりが生み出す利益の指標です。
具体的には、売上から原価を引いた粗利を、スタッフ数で割ることで算出できます。一般的な飲食店では、一人あたり50万円~60万円程度の労働生産性が基準とされています。
ただし、この基準値を単に上回れば良いというわけではありません。店舗の業態や特性によって労働生産性は異なるため、自店の状況に合わせた適正値を意識することが重要です。
飲食店の安易な人件費削減が引き起こす課題
飲食店の人件費を削減することで利益は増えますが、削減しすぎると店舗運営に支障をきたします。
安易な人件費削減が引き起こす課題は、下記の通りです。
● モチベーションが低下する
● 過重労働につながる
● 採用・教育の手間が増える
モチベーションが低下する
人件費を削減しすぎると、スタッフのモチベーションの低下につながります。
例えば、人件費を抑えるためにシフトを減らしすぎると、スタッフが稼ぎたい給与額に届かなくなります。思ったように稼げなければ、不満やストレスが溜まり、モチベーションが低下してしまうでしょう。そうなれば、店舗の雰囲気が悪くなり、サービス品質の低下などの悪影響につながってしまいます。
過重労働につながる
人件費の安易な削減は、スタッフの過重労働につながります。
店舗運営に必要な人員を削減しすぎると、個々のスタッフに業務が集中し、長時間労働を強いられます。例えば、調理スタッフの人員を減らしすぎると、ピーク時の注文に追われ、休憩を取ることも難しくなるかもしれません。サービススタッフも同様に、顧客への対応に追われ、疲労の蓄積からミスが増えるなど質の低下を招くかもしれません。
このような状況が続けば、労働基準法などの関連法規に抵触するリスクもあります。
採用・教育の手間が増える
人件費の安易な削減は、かえって経営を圧迫する可能性があります。
飲食店において、人件費の削減を過度に行うと、スタッフのモチベーション低下や過重労働につながり、結果として離職率の上昇を招いてしまいます。離職者が増えれば、新たな人材の採用が必要です。採用活動にはコストがかかるだけでなく、採用後の教育にも時間と労力がかかります。十分な教育がなされないままスタッフを配置すると、サービス品質の低下や生産性の低下など、別の問題が発生する可能性があります。つまり、人件費を無闇に削減しすぎると、かえって経費がかかってしまうでしょう。
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飲食店の人件費を削減する方法
飲食店の人件費を削減する方法は、下記の通りです。
● データ分析に基づくシフト作成を行う
● システムの導入で効率を上げる
● 業務内容のマニュアルを作成する
● 業種フローの見直しをする
データ分析に基づくシフト作成を行う
データ分析に基づくシフト作成を行うことで、人件費と売上のバランスを保てます。
まずは、人時売上高や時間帯別売上データなどを分析し、ピークタイムとオフピークタイムを把握することが重要です。このデータに基づき、ピークタイムには十分な人員を配置し、オフピークタイムは人員を最小限に抑えるなど、効率的なシフト作成を行うことで無駄な人件費を削減できるでしょう。ただし、スタッフのシフト希望を考慮することも、忘れてはいけません。スタッフの満足度を保ちつつ、店舗のニーズに合わせた柔軟なシフト調整を行うことで、効率的な店舗運営ができます。
システムの導入で効率を上げる
飲食店の人件費を削減するためには、業務負担を減らすシステムの導入が効果的です。
具体的には、食券機やモバイルオーダー、テーブルオーダーなどのセルフオーダーシステムを導入することで、注文受付や配膳などの業務をスタッフに頼る必要がなくなり、人件費を節約できます。
ただし、システムの導入には機器コストなどの初期費用がかかります。そのため、初期費用に見合う人件費削減効果が得られるかどうかを慎重に見積もり、長期的な視点で判断しましょう。
業務内容のマニュアルを作成する
飲食店の人件費を削減するためには、体系的なマニュアル作成が効果的です。
マニュアルが整備されていれば、新人スタッフの教育に要する時間を大幅に削減できます。基本的な業務手順がマニュアル化されているため、先輩スタッフが都度指導する必要がなくなり、人件費を抑えられます。
また、マニュアルは業務の属人化を解消する上でも有効です。マニュアルがしっかりと整備されていれば、どのスタッフでも同じ手順で業務を遂行できるため、特定のスタッフに負担がかかることがなくなります。
このように、体系的なマニュアルの作成は、教育時間の削減、属人化の解消などの面で人件費の削減に貢献できます。
業種フローの見直しをする
飲食店における業務フローの見直しは、人件費の削減に効果的な手段の一つといえます。
具体的な改善策として、下記のようなことが考えられます。
業務フローの見直しは、店舗責任者だけで判断するのではなく、スタッフと意見交換を行い、現場の声を反映させることが重要です。スタッフの知見を活かすことで、より現実的で効果的な業務改善につなげられるでしょう。
飲食店の人件費削減で注意するポイント
飲食店の人件費削減で注意するポイントは、下記の3つです。
● 法令遵守を徹底する
● 食材費の見直しも同時に行う
● 既存スタッフの育成に力を入れる
法令遵守を徹底する
飲食店の人件費を削減する際は、法令遵守を徹底することが重要です。
労働基準法などの関連法規を厳格に遵守し、最低賃金の規定、労働時間、休憩時間、残業手当などの基準を適切に守らなければなりません。
不適切な方法で人件費を削減すると、法的なリスクに加えて、スタッフに訴えられるなどの深刻な労働問題を引き起こす可能性があります。また、スタッフのモチベーションの低下や離職率の増加などにより、お店の評判やブランドイメージにも悪影響を及ぼしかねません。
そのため、人件費を削減する際は、関連法規を遵守し、スタッフの労働環境にも十分配慮しましょう。
食材費の見直しも同時に行う
人件費を削減する際は、人件費だけではなく、食材費も同時に見直すことが重要です。
一般的に、飲食店のFLコスト(食材)と(人件費)の合計は、売上に対して一般的に55~60%程度が目安とされています。そのため、人件費の削減と同時に、食材費の適正化を図ることで、FLコストの最適化が実現できます。
各店舗の特性を踏まえ、人件費と食材費の両面から、FLコストの最適化を図りましょう。
既存スタッフの育成に力を入れる
人件費の削減には、既存スタッフの育成に力を入れることが重要です。
生産性の高いスタッフが増えれば、少ない人数でもスムーズな店舗運営が可能になり、人件費率を抑えられます。時間と手間はかかりますが、既存スタッフの育成に注力することで、長期的な視点から人件費の適正化ができるでしょう。店舗の特性に合わせた育成方法を検討し、スタッフの定着と生産性向上を目指すことが重要です。
飲食店の人件費についてよくある質問
飲食店の人件費について、下記2つの質問に回答していきます。
● 飲食店の人件費で押さえておきたい法律は?
● 飲食店の人件費の平均は?
飲食店の人件費で押さえておきたい法律は?
飲食店の人件費管理においては、下記3つの法律を押さえておきましょう。
出典:
労働基準法
労働者災害補償保険法
パートタイム・有期雇用労働法
これらの三つの法律を遵守しながら、スタッフの労働時間管理や賃金支払いを行い、労働環境の改善に努めることが大切です。
飲食店の人件費の平均は?
飲食店の人件費の平均は、業態や店舗の規模によって大きく異なるため平均金額の算出は難しいです。そのため、人件費の指標となる売上高比率で回答します。
日本政策金融公庫が2023年2月に掲載している「小企業の経営指標調査」の飲食店・宿泊業の一般飲食店の業種別経営指標によると、飲食店の人件費対売上高比率は平均で43.5%となっています。
一般的に、飲食店の人件費の目安は売上の30%程度とされていますが、この調査結果では平均で43.5%と、この目安を上回っているという状況です。
このように、飲食店の人件費率は業態や特性によってばらつきがあり、一概に30%が適切とはいえません。自店の状況に合わせて、適切な人件費率を設定することが重要です。
出典:小企業の経営指標調査
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本記事では、飲食店の人件費に関する指標や削減する方法、注意するポイントを解説しました。
飲食店の人件費を管理するためには、FLコスト、営業利益、人時売上高、労働分配率、労働生産性などの指標を理解する必要があります。人件費を削減する方法としては、データ分析に基づくシフト作成や業務効率化を図るシステムの導入、業務フローの見直しなどが効果的です。人件費の管理は、法令遵守を徹底しスタッフの希望を踏まえ、スタッフの労働環境に十分配慮しましょう。
人件費の支出が難しい場合は、他の経費が圧迫していないかを確認することも大切です。毎月固定でかかる経費の一つに、店舗の賃料やローンの支払いがあります。適切な店舗選びが、将来的な店舗経営の安定につながります。
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